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私のマーヨンなご近所

水野

乾季が終わり、時々、激しい雨が降るようになった。我が家は道路からずいぶん低い土地に建っているが、意外にも洪水の被害はなかったのだが、何年か前に、隣の叔父さんが豚小屋の排水のために勝手に大きな穴を掘り、その残土が丘のように空き地に放置され、少しの雨でも床上浸水の被害を受けるようになったことはここでも記事にした。あれから丘のように積み上げられていた残土は、もっと洪水の被害が大きくなった奥の部落へと運ばれ、結局、手押し車は無用の長物となり久しい。 先日、久しぶりに大雨に見舞われた。局地的ないわゆるゲリラ豪雨というやつだ。遠くで雷が鳴り響いていたのが、だんだん近づいてくる。時々、雷が落ちて、地響きがする。慌ててテレビを消す。本当のところ、どういう被害があるかはわからないけど、とりあえず電化製品は消しておいた方がいいだろう、という判断だ。そして冷蔵庫以外は、コンセントも全部、抜いておいた。これまた何となく。 とりあえずはこれでやり過ごそうと思っていたら、姑がやって来て、テレビにバスタオルをかける。もうコンセントも抜いていて、なぜテレビにバスタオルをかけるのかはわからない。聞いても、ただ「雷がなっているから。」と繰り返す。そのうちに突然、停電になった。もうこうなってはどうしようもないので、少し早いが寝ることにし、横になる。 外ではバケツをひっくり返したような雨が降ったり止んだりしている。雷も遠くで鳴っていたかと思えば、突然、近いところに落ちる。 テラスにいる番犬が、鳴いている。雷が怖いのだろうが、かといって家の中に入れてあげるわけにもいかない。図体はでかく、知らない人には吠えまくるが、小心者の犬だ。つないである鎖を外してやっているので、自分でどこかに避難すればいいのだが、テラスで悲壮感を漂わせながら鳴いている。 相変らず、雷は鳴り、雨も強く振っているが、電気は復旧した。すると姑が部屋から出てきて、台所に一目散に走っていく。ただ事ではない形相だ。そして包丁をつかみ、自分の腕に押し当てているから驚いた。リストカットか?と、慌てて止めようとした私であったが、そんな様子を冷めた目で息子が見ていた。聞けば、あれはおまじないのようなことで、雷のせいで自分の体に電気が入り込んでいる(と思っている)のを抜いているそうだ。姑の必死な姿を見ていたら、玄関から水が入ってきた。 慌てて玄関の扉を開けると、下半分はアルミ板で、上半分が網戸になっている扉が壊されていた。そういえば犬が必死に引っ掻いていたような音がしていたが、上半分の網戸部分が破られていた。それもショックだったが、それより先に浸水をどうにかしないと。と、以前、使っていた土嚢を探すが、見当たらない。土砂降りの雨の中、必死に探し、ようやくゴミに埋もれていたのを二つだけ引っ張り出してきた。それもすでに米袋が朽ちていてうまく持てない。抱え込んでやっと玄関に置く。その間もどんどん水は家の中へ。雷が怖い、と言っていた姑も、それどころではなくなり、ちり取りで水をかきだしている。とりあえず汚れた洗濯物を床に敷き、水をふき取る。それでも間に合わなくなり、みんなで右往左往しているところへ、犬がなぜか嬉しそうに尻尾を振っている。もしかしてこの犬は、雷が怖くて、中に入れてくれと訴えていたわけではなく、水が入り込んできていると知らせてくれたのか。どちらにしても網戸を壊すことはないとは思うが。 しばらくすると雷も遠くなり、雨も止んだ。我が家も水が少しだけ入って来ただけで、大きな被害はなかった。 しかし、考えてみればなぜこれだけ雷が鳴っていて、以前にも浸水被害があったにも関わらず、予め土嚢を積んでおかなかったのか、と自分でも呆れる。周りのフィリピン人たちに、学習しないよねぇ、などと偉そうに言っていたことが恥ずかしくなると同時に、すでに私はこちら側にいるのだと実感する。そして何より、そんな自分が、以前ならば許せなかったが、「やだな、もう」くらいで済ませようとしていることに我ながら驚く。 とりあえず、翌日には、古い、袋が半分朽ちている土嚢ごと新しい米袋に入れ、玄関脇に用意しておいた。 姑が水の入り込んだところをモップで拭いてくれたおかげで、何だか家の中がやけにきれいになっている。そして気が付く。浸水でもしないと、モップはかけてくれないことを。 網戸の扉が犬によって壊されてしまったので、以来、我が家は玄関を開けっぱなしにできなくなった。扉を閉めていると、風も入ってこない。それより何より、家の中が昼間でも暗い。仕方がないので、網戸の扉を直すことしたが、また犬に壊されてしまうかもしれない。と、親戚の叔父さんにボヤいていたら、俺に任せろ、と壊れた網戸の扉を持って行って、数日後、取り付けてくれた。扉の半分くらいが網戸だったのだが、犬が立っても届かないくらいのところまでアルミ板になっていて、網戸の部分は上の少しだけしかなかった。確かに犬に壊される心配はなくなったかもしれないけど、ほとんどがアルミ板になっていて、扉を閉めている状態とほとんど変わらない。これは意味があるのだろうか。任せた私が悪かった。

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