セブ島通信 Vol.168 2019年01月号へ戻る

私のマーヨンなご近所

水野

以前、日本に帰国する友人に、犬を譲ってもらったことがあった。それまで犬を何匹か飼っていたことはあった。いや、「飼う」という言葉が正しいのか今思えば自信がない。というのも、首輪はつけていたような覚えはあるが、つないではいなかった。餌をちゃんとあげていたような記憶はなく、食べ残しがあればあげていた。そんな感じでものすごく自由だった。だから、犬を飼うことがそんなにたいへんなことだとも思わず、安請け合いしてしまったのだ。その犬は雑種であったが、日本人に飼われていたこともあり、ドックフードしか食べない、とのことだった。鶏肉を食べるとアレルギーが出るとかで、皮膚も少しただれていた。もちろん毎年、狂犬病などの予防接種をしていて、獣医にかかっていた手帳も渡された。正直、私はこのとき、経済的な問題で人間でさえ病院に行くのをためらうのに、犬なんて連れていけるのか、と思い、引き取ったことを少しだけ後悔したのだった。 しかし、その犬はとても賢く、無駄には吠えないが、不審者にはきっちり立ち向かってくれる優秀な我が家の番犬となった。最初のうちは、ドッグフードをあげていたが、あまり食いつきはよくなく、隣の叔母さんの食堂の残飯を好んで食べていた。鶏肉は食べさせないようにと姑にも伝えはしたが、普通に骨付きの鶏肉をあげていた。しかし、いつの間にか皮膚のただれは治っていた。 そして何年かして天に召された。飼っていた犬が天に召されるのは初めてではなかったけれど、やはりいなくなると心にポッカリと穴が空いたような日々をしばらく過ごさなければならない。そしてもうこんな別れを繰り返すのはやめようと、生き物を飼うことは終わりにしようと思ったのだった。 しかし、優秀な番犬がいなくなった途端、近所の子供たちが、我が家の周りをうろつくようになった。我が家は、国道沿いにあるが、いわゆるコンパウンドと呼ばれる形態で、道路からは見えない。昔は、よく押し売りだの、物乞いだのが来ていた。クリスマスが近づくと、歌を披露しにくるグループもいたが、今では四方を壁で囲まれているので、知らない人が入ってくることはなくなった。しかし、一番危ないのは知っている人だったりする。 こうなると、ロスだなんて悠長なことを言っていられない。その辺にいる犬でもいいから連れてこい、と息子に言ったら、すぐに子犬をどこからかもらってきた。思い起こせば、こんなに小さい犬から飼ったことなんてなかった。いつの間にかいついちゃった犬がほとんどだった。いついちゃった犬は、すでにしつけがされていた。無駄に吠えたりすると、奴らは命が危ないので、ものすごくわきまえていた。しかし幸か不幸か、その小さな犬は、我が家に迎え入れられ、自由奔放に図体だけみるみる大きくなった。大きくなった犬はそれだけで恐ろしいらしく、近所の子供たちは寄り付かなくなった。 それはそれで立派な役割を果たしてくれているのだが、以前の犬とどうやら出来がちがうようで、誰でもかれでも吠えまくり、本人は親愛の情を示しているつもりらしいが、飛びかかっていく。とりあえず年に一度の狂犬病と獣医に言われるまま数種のワクチンを接種しているが、何しろ図体ばっかり大きくなっているので、連れて行くのも一苦労なのだ。ご存知の通り、自家用車はないので、その辺を走っているモルティカブを捕まえ、貸し切りにしてもらうよう交渉しなくてはならない。途中で生意気に車酔いなんぞして、リバースしたりした日には、それを運転手にバレないようにきれいにしたりしなくてはならない。 先日、この犬が、我が家を訪れた親戚の叔母さんに飛びついていき、怪我をさせてしまった。怪我といってもほんのかすり傷だった。その場では、その叔母さんも、「平気、平気」と言っていたのだが、あとから病院に言って、狂犬病の注射を打ってもらう、と人づてに聞いた。私もよく使う手だが、言いにくいことは、人づてに言ってもらう作戦らしい。しかしウチの犬は、以前、このセブ島通信で現会長の記事を読んで以来、狂犬病の予防接種は欠かしていない。今年だって、ついこの間…で思い出した。この叔母さんに一緒に付いて行ってもらった。なのに、わざわざ注射を打ちにいくというのか?いろいろと湧き上がる感情もあったが、黙って二千ペソを渡しに行き、「もうウチには近づかないでね。」と、笑顔で伝えた。 それからその叔母さんが、本当に注射を打ちに行ったのか否かは定かではないが、相変わらず我が家の犬は、誰かれ構わず吠えまくり、その割に、花火や雷の音に怯え、家を破壊している。 どうしてこんなことになってしまったのか、と、よくよく顧みれば、私はしつけなるものができないのだ、という結論に行き着く。なぜなら犬だけではなく、我が息子たちも自由奔放に図体ばかり大きくなっていたから。

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